メーカー勤務が教える「リコールの仕組みと内部事情」

仕事の役に立つ

30代会社員のなおつんです。

このブログでは30代会社員の悩みを同じ会社員へ向け共有し、今日よりも明日へ一歩前進できるような記事を書いています。

私は製造業(メーカー)の営業系の部署で働いており、アフターサービス体制の確立や顧客クレームの分析などを行っています。

 

今回は、2020年8月21日にYahooニュースで「デンソー、部品の不具合確認後も供給…ホンダ、マツダ向け」という記事が出ていたことについて、実際のところメーカーはリコールをどのように進めているかについて詳しく解説していきます。

 

なおつん(左)
なおつん

今後メーカーや製造業に就職&転職を考えている方は知っておいた方が良いと思います。

また、メーカー勤務として最後にどうしても言いたい事があるので、最後まで読んでいただけるとありがたいです。

リコール制度とは

国土交通省が発表しているリコールに関するガイドラインには以下のように記されています。

リコールとは、同一型式の一定の範囲の自動車について、その構造・装置又は性能が安全確保及び環境保全上の基準である「道路運送車両の保安基準」(国土交通省令で規定。以下「保安基準」という。)の規定に適合しなくなるおそれがあると認める場合であって、その原因が設計又は製作過程にあると認められるときに、販売後の自動車について、保安基準に適合させるために必要な改善措置を行うことをいいます。

その際、自動車メーカー又は輸入事業者(以下、「自動車メーカー等」という。)は、不適合の状態、その原因、改善措置の内容等をあらかじめ国土交通大臣に届出ることが必要となります。

また、自動車メーカー等は、リコール届出後からユーザーに対して不具合の内容等を通知し、早期に改善のための措置を行うことが義務付けられています。

原文を要約すると「製品の不具合が原因で車検に通らなくなる可能性がある事が発覚した場合は、メーカーが国土交通省に届け出をして改善処置をしなさい。」という制度です。

なおつん(左)
なおつん

車検に通らなくなる事だけではなく、怪我などの安全性を脅かす場合もリコールにとなる場合もあります。

車のリコールの事例を見ると、多くはブレーキの不具合、エンジンが止まる故障、燃料漏れなど火災につながる案件が多いです。

 

届け出をした後は、メーカーである製造者の責任において顧客へ連絡をするなどして対策処置をする流れとなります。

ニュースを見ると自動車に関するリコールが多いイメージですが、食品や家電家電のメーカからもリコールを発表して回収の実施をする事があります。

 

この届け出をしなかった場合は「1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、法人に2億円の罰金」が科せられることになっています。

過去、大手自動車メーカーの三菱自動車が「リコール隠し」を行い、当時は多くの自動車ユーザーを震撼させるほどの話題になりました。

実際にリコール隠しを行いそれが発覚すると、2億円の罰金よりもメーカーの社会的な信用失墜の方がダメージが大きく立ち直るのに長い時間が掛かります。

なおつん(左)
なおつん

三菱自動車の「リコール隠し」の説明は、内容がかなり長くなるので今回はいたしません。

Yahooニュースの記事の内容

初めにも言いましたが、私がこの記事を書くことになったきっかけは「デンソー、部品の不具合を確認後も供給…ホンダ、マツダ向け」というYahooニュースの記事です。

まずは、この記事の内容を確認していきましょう。

なおつん(左)
なおつん

著作権の関係上、実際の記事文面から多少表現方法を変えています。

Yahooニュースの記事の内容を要約⇩

トヨタグループ傘下の「株式会社デンソー」が、自社で製造している自動車用の燃料ポンプについて不具合が確認されていたにもかかわらず、ホンダやマツダに同様の不良部品を供給していた事が発覚した。

ホンダでは32車種で約137万台が対象となり、5月下旬に全世界でリコールを実施する方針を明らかにしていたという。

これが意図的であるかどうかは判明していないが、コンプライアンスや企業としてのモラルが問われるかも知れない。

 

この案件の詳細情報を調べたところ、ホンダはCR-Vやシビックなど4機種で12,427台のリコールを2020年5月下旬に発表しています。

燃料ポンプの内部不良によってポンプが作動しなくなり走行中にエンストを引き起こす可能性があるとしており、回収の呼びかけをしています。

 

Yahooニュースの記事の最後に書かれている「コンプライアンス」や「モラル」などのの文面が個人的には非常に気になるところですが、その理由は最後に解説します。

リコール発表~無償回収までのプロセス

ここからはリコールがどのようなプロセスで行われるかメーカー側の立場でひとつずつ解説していきたいと思います。

まずはリコールの全体スケジュールを把握するために、以下に大まかな計画表を出しておきます。


注:企業の組織や案件ごとによって日程や内容は異なります。

 

では、次からは最初に不具合が発覚してからリコールの開始までをひとつづつ見ていきます。

不具合の発覚(初報)

最初の不具合の事を「初報」といいますが、これがいつ発覚するかは大きく2パターンあります。

パターン1、製品に起因する不具合によって顧客が怪我や火傷をしたとクレームがあった。
パターン2、実際に顧客は怪我などはしてはいないが、製品に起因する不具合によって今後怪我をする恐れがある事が発覚した。

上記のどちらのケースも「製品に起因する不具合によって」という事がリコールを判断する上でとても重要です。

非常に極端な例を一つあげると、お客さんが給油中にタバコを吸っていて、それが万が一ガソリンに引火してお客さんが火傷を負った場合、明らかにタバコ吸っていた人の責任(瑕疵)なので「製品に起因する不具合」とはいえずリコールにはなり得ません。

 

メーカーには日ごろからクレームや改善要望など様々な情報が入ってくるため、これらの情報に常に目を光らせており、少しでもリコールに発展しそうな案件は不具合現品を取り寄せて原因の調査をしたり、不具合状況などの聞き取りをしています。

 

原因調査

前項のように日々注意深く市場からあがってくる情報を見ながら、実際にリコールになりそうな「怪我」「火災」「事故」に発展しそうな案件の場合には本格的に調査を開始します。

調査というのは、「製品を使っていたお客さんがどのような状態で怪我をしたのか」「普段はどんな使い方をしていたのか」などを詳細に聞き取る方法と、不具合が起こった現品をそのままメーカーが引き取って調査専門の部署である「品質保証部」が原因を調査する方法があります。

 

その一方で稀にある案件では、お客さんの不適切な使い方によって起こった問題が発覚する事です。

お客さんによっては起こった問題が自分の責任と判明する事を恐れて、本当の事を話してくれない場合もあるので、このあたりは判断が難しい事もあります。

いずれにせよ品質保証部によって原因の調査が進めば、製品が起因する不具合であったのか、お客さんの使い方が不適切であったのかが判明する事になります。

 

綿密な社内調整

品質保証部の原因調査の結果で「リコールにすべき案件」と判断した場合には、リコールに向けて様々な部署が実施に動き出すことになります。

ここでのポイントは、品質保証部が「リコール」と判断したからといって、直ちにメディアなどで発表したり、関係省庁に届け出をする事はありません。

これらの発表や届け出をする前に行われるのが「綿密な社内調整」です。

「社内調整」では次の項目を確認していくと同時に、リコールを実施するための準備を進めます。

<リコールを実施する上での確認事項と準備>
1、リコールを実施した時に回収対象となる台数規模はどのくらいか。
2、リコール対象となるエリアは日本国内と海外も対象となるのか。
3、対策部品は十分に供給出来るのか。また、いつ供給が開始出来るのか。
4、回収する費用は総額いくらくらいになるのか。
5、事故などの発生率は今後どのくらいを見込んでいるか。

実際はまだまだ確認事項はあるのですが、このような事を水面下で確認しながら準備をしていきます。

リコールの対象範囲については、今回のデンソーの燃料ポンプの件だと、ホンダとマツダは海外でも自動車を販売しているため海外も対象になるかと思われます。

 

海外が対象に含まれる場合は、現地の日本人駐在員などにもこのタイミングで情報が伝えられます。

なおつん(左)
なおつん

海外に情報を伝える場合は電話やテレビ会議がメインです。
その理由は色々ありますが、この段階での情報は機密情報として繊細に扱う必要があるため、外部に情報を漏らさないようにする意味があります。

 

リコールに関して営業部の私がする事は、現地駐在員+現地スタッフへ事前に事の顛末や具体的な回収方法を電話などで連絡をします。

リコールの回収にあたっては実際に作業を現地のディーラーに依頼する事になるので、回収作業マニュアルの作成や対策部品の供給方法などを現地スタッフと決めていく事になります。

役員報告と決済

前項の「社内調整」がある程度出来たところで、役員へ報告して決済をもらう段階に入ります。

役員への報告時には案件の顛末や不具合の調査結果、リコール発表と回収の準備状況などの報告はもちろんですが、以下の事も報告して最終決済をもらいます。

1、関係省庁に届け出るタイミング
2、マスコミやメディアへの対応、顧客への告知方法
3、リコールを実施するための総額費用+損害額
4、具体的な回収の手段
5、全数回収終了までの日程計画

ひとたびリコールなどの問題が起これば莫大な費用が掛かるので、金額の見積りは正確さが求められます。

また、関係省庁への届け出のタイミングと情報公開の時期なども慎重に判断し、現場を混乱させないように細心の注意を払います。

 

関係省庁への届け出の前に、、、

リコール実施のための役員決裁が下りてから、ようやく国土交通省などの関係省庁に届け出をします。

実際には省庁にはアポなしで届け出をするのではなく、事前に担当者に説明に伺って今の進捗状況などの情報共有をするなどの根回しをしておくことが多いです。

 

この理由は、役員決済が下りてからすぐに関係省庁へ届け出をすると、情報が一気に広がるため日本国内はおろか海外にまで即座に情報が伝わり、現場がパニックになる可能性があるためです。

特に現場のディーラーにとってはリコール情報はメディアの発表によって初めて聞くことになる場合も多いため、ディーラーの末端までに情報が入る前には対策部品などの供給が十分に出来ている必要があります。

この情報管理が出来ないと、関係省庁への届け出と同時に顧客からは電話の問い合わせがディーラーへ殺到するので、現場への情報の共有の仕方とタイミングには非常に気を配っています。

 

さらに対策部品の市場への供給に関しては、届け出のかなり前から準備を進める場合が多く、届け出と発表と同時に対策部品が供給できる状態までにしているのが一般的です。

 

届出とリコール開始

各準備や決済が終わってから、ようやく正式に届け出と発表となります。

メーカーはリコール回収を促進するために、テレビCMやインターネットはもちろんですが、自動車の場合だと顧客に直接レターを郵送する場合も多いです。

なおつん(左)
なおつん

私は過去に自動車整備士をしていましたが、ディーラー営業マンがお客さんにひたすらリコール回収の電話をしていたのを覚えています。

回収率の管理

回収作業は、お客さんの安全を確保するために対象となる全台数を回収する前提で作業は進められます。

しかし、いくら広告を打っても電話を掛けても連絡が取れないお客さんや、回収が面倒だといって非協力的なお客さんもいます。

それでもリコールの責任はメーカーにあるので、メーカーは何とか回収率を上げるために販売店やディーラーに回収の促進を依頼をしたり、テレビCMなどにも力を入れて取り組みます。

なおつん(左)
なおつん

たまにテレビCMで家電などのリコールを目にすることがありますね。

また、実際の回収作業は販売店やディーラーで行ってもらうので、作業するために発生した工賃などはメーカーが費用を負担します。

回収作業を行った販売店がメーカーに作業完了の報告をすると同時に、決められた費用をメーカーに請求します。リコールの作業の場合はお客さんがお金を払う必要は当然ありません。

回収作業の流れ⇩

メーカーはある一定期間でどのくらい回収作業が進んだかを管理しています。

回収作業がなかなか進まない場合は必要に応じて再度テレビCMを出したり、ホームページなどで積極的に告知をします。

最終的に100%回収作業が終わればリコールは終了となりますが、製品がすでに破棄されてしまっていたり、ゆくえが分からないもの等もあるため、現実的には100%回収する事ははかなり難しいといわれています。

 

以上が社内で行われるリコールの大まかな流れでした。

まとめ、ニュース記事の内容は鵜呑みに出来ない

最後にメーカー勤務として私が言いたかった事を書きます。

ここまでしっかり読んでくれた方は理解出来ると思いますが、今回のデンソーの件のニュースで「不具合が確認されていたにもかかわらず不良品を供給」という記事の表現に少し違和感を覚えます。

「不具合が出た=すぐに届け出」は現実的にはあり得ないですし、これだけでコンプライアンスを問われるような案件というのは過言です。

当然、事前にデンソーからはある程度の情報はホンダとマツダへ報告をされているはずですし、もし何の情報も伝えられておらず寝耳に水の状態であればもっと大問題に発展しているはずです。

このYahooニュースの記事を書いた人が事実確認をせずに、このような表現をするのであれば少し悪意があるように見えます。

 

なおつん(左)
なおつん

ニュースなどの情報を全て鵜呑みにする事は時に危険な考え方だと思います。

このブログでは会社員や学生さんの役に立つ情報や考え方を発信しています。

ぜひ興味があれば別の記事を読んでいただきお役に立てればと思います。

 

なおつん Lv.若手平社員

30代会社員のなおつんです。
このブログでは30代会社員の悩みを同じ会社員へ向け共有し、今日よりも明日へ一歩前進できるような記事を書いています。

私は製造業(メーカー)の営業系の部署で働いており、年に数回海外出張もします。

個人投資家として様々な投資案件もチャレンジしてFIREを目指して奮闘中です。
会社員や投資家の方にとって有益な情報を発信しています。

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